~創立95周年記念「玉川の集い」~
<創立記念イベントの演出・構成・進行を担当の髙橋教諭(左)と朝日教授(右)>
学校法人玉川学園(東京都町田市)は、創立95周年を記念する音楽イベント「玉川の集い ~歌声は力、合唱は労作~」を11月20日(水)14時-17時30分に、横浜アリーナ(横浜市港北区)で開催します。「歌に始まり、歌に終わる」といわれる玉川学園の教育の基盤である音楽を中心に、2029年に迎える100周年に向けて、幼稚部から大学院までの園児・児童・生徒・学生とその保護者、教職員、卒業生ら、世代を超えた“玉川っ子”が一堂に会す、大規模な音楽行事を開催します。
<前回・創立90周年記念式典、横浜アリーナ開催の様子>
キーワードは「1万人の音楽授業」です。横浜アリーナの客席全体を“教室”とし、出演者だけでなく、観客全員で楽しみながらイベントを創り上げ、「歌を知り、歌を学び、歌を歌う、そして新たな玉川の音楽教育の一歩を一同で踏み出す」ことをそのコンセプトに掲げています。玉川の児童・生徒が愛用する『愛吟集』から「もみじ」、さらに礼拝の時間に歌う讃美歌の合唱に加え、オーケストラ部による演奏や、小学4年生から大学生までの有志による創作舞踊劇やゴスペルクワイアの演奏が行われます。
第Ⅰ部の最後に、毎年、音楽祭で10年生が歌っている「ハレルヤ」を6~12年生が精いっぱい歌います。その後、終盤を盛り上げるのが、伝統的に歌い継がれるベートーヴェンの「交響曲第9番 ニ短調 作品125(合唱付)」終楽章(歓喜に寄せて)、いわゆる「第九」の合唱です。これらは玉川の音楽教育の真骨頂です。例年、12月の音楽祭で全学部・学科の大学1年生全員が合唱するこの「第九」を、今回は95周年大学オーケストラの演奏に乗せて、大学1年生と、特別参加する在学生・卒業生の有志の総勢1600人が原曲のドイツ語で大合唱します。ソリスト4人のプロの声楽家を含め、オール玉川による第九の演奏です。「第九」の美しいハーモニーに、会場全体が一体となることでしょう。
<前回・創立90周年記念式典、第九のステージ>
今回、イベントの演出と構成、進行を手がける朝日公哉教授、髙橋美千子教諭のお二人に、開催へ向けた意気込みなどを聞きました。
【朝日公哉(あさひこうや)教育学部 教育学科 教授】
専門は音楽教育学、合唱指導。保育者、教育者として音楽の喜びを探求し、豊かな人間性を育む音楽教育をテーマに、その理論と方法を教授している。
【髙橋美千子(たかはしみちこ)音楽科 教諭】
<6年生~12年生の音楽授業・ハンドベル部 クラブ顧問>
合唱を通してハーモニーの楽しさや協調性の大切さ、「歌う喜び」を伝えている。2012年から毎年、演奏のため東北地方を訪問。生徒と共に地域の方へ音楽を届け、交流している。
――「1万人の音楽授業」とは、日常的に音楽教育を取り入れている玉川学園ならではの試みですね。
朝日「今回、公演タイトルを『玉川の集い』としたのは、同じ志を持った者が集まり、その意志を確認し合いながら、皆で気持ちを一つにし、目指すべき場所へ向かうことをゴールにしたからです。この集いを通して、玉川学園がずっと大事にしてきた音楽教育について皆で再考し、100周年に向けて、ここからさらに一歩を踏み出す機会にしたいと考えています」
髙橋「そこでは全員が出演者であり、歌のうまい下手ではなく、お客さまも一緒になって楽しんでもらい、すべての参加者が何かしらの感動を味わえることを大切にしています。『歌に始まり、歌に終わる』との言葉からも分かるように、玉川では教育はもちろん、生活に歌があふれているからこそ、このステージが作り上げられるともいえます」
――玉川の音楽教育はどのように行われるのですか。
髙橋「玉川では朝のあいさつに始まり、新しい友の歓迎、食事への感謝、礼拝堂での祈り、大きな行事への意気込み、別れのあいさつなど、これらすべてを歌で表現します。長ければ幼稚部から12年間、校歌は毎朝歌います。まだ眠いとか、今日は寒いとか、毎日コンディションが変化する中でも、朝、歌声が聞こえてきたら、そろそろ朝会が始まるな、と生徒たちが校庭へと急ぎ、先生から言われなくても自然と集まって並ぶ姿が日常の光景になっていますね」
朝日「K-12(幼稚部から高等部までの一貫教育)では毎朝、朝会の歌から一日が始まります。1~5年生では、毎朝8時15分くらいになると、まず職員朝会が歌で始まり、それまでドッジボールやドロケイなどで遊んでいた児童たちが、体操の音楽に合わせてその場で跳び始めます。その後、1度と5度の和音をひたすら繰り返す伴奏(チャチャチャチャ、チャチャチャー)が始まると、子どもたちは『コッコケコッコ 夜が明けた~』と輪唱しながら、三々五々、朝会体系に集まってきます。この輪唱というのがポイントで、ずらして歌うことによって、音楽は豊かになっていくんです。ひとたび集合したら、季節の歌や校歌を歌います」
――他校ではあまりみられない独自の音楽教育ですね。
朝日「玉川の音楽教育を一言で表すなら、学習者主体の音楽であることでしょう。きれいに歌う、音程正しく歌うということを超えて、生徒たちが演奏や合唱に全力で向き合い、それを通じて何を感じ、どのように音楽の喜びを得ているのか。それを第一義に考える教育であるといえます。こうした取り組みを習慣化することにより、豊かな表現力が身につき、やがて『ハレルヤコーラス』や『第九』のような崇高な作品の本質に迫れるのだと考えています」
髙橋「授業でも、ただ曲を教えるのではなく、なるべく一人一人の声を聴き、仲間の成長を皆で褒め合うことを大事にしています。まだ皆の前で歌えない子は、放課後に呼んで一緒に歌うこともあります。そうしていくと、当初は歌が嫌いで全く歌わなかった生徒もいつの間にか歌うようになり、高校3年生には立派に歌えるようになって卒業していきます。普段の授業ではおとなしい生徒が、音楽の授業で褒められて生き生きすることもあります。音楽が学校生活と結びついていますね」
<10年生「ハレルヤ」合唱パート練習>
――プログラムの目玉である音楽授業では讃美歌も披露します。
朝日「玉川では、定期的に礼拝で讃美歌を歌います。讃美歌は、玉川の『全人教育』の絶対価値である真・善・美・聖のうち、『聖』の価値の創造に当たります。今回、結婚式でもよく歌われる『讃美歌312番 いつくしみ深き』などを混声四部合唱でお届けしますが、この曲も集いだから歌うのではなく、毎年、小学生から大学生までの授業で必ず扱う曲なんです。学生時代に体で覚えたことは忘れないのか、玉川の卒業生が結婚式に出席すると、讃美歌を歌えるため、聖歌隊に驚かれるようです。讃美歌の洗練された混声四部の和声は美しいハーモニーを生み出します。玉川っ子にとって、讃美歌は忘れられない曲になっていると思いますね」
――創作舞踊劇「未来の学園」の出演者は学内から公募されたそうですね。
髙橋「そうなんです。小学4年生から大学生までの出演したい生徒を募集し、300人弱のメンバーが集まりました。玉川のもう一つの特徴である舞踊教育に、創立以来、取り組んできたデンマーク体操の要素を取り入れています。幼稚部も含め、小学部から中学・高等部、大学までワンキャンパスである玉川だからこそ可能であり、100周年につながる新たな試みとして企画しました。小学生と大学生が一つの部屋で共に歌ったり、踊ったりといった経験は普段はなかなかできないことだと思います。上級生が下級生に優しく教えたり、教職員も出演者として一緒になって練習したりと、皆が楽しんで練習に参加しながら、一つのものを作り上げてきました」
<創作舞踊劇(左)、ゴスぺルクワイアの練習風景(右)>
――さらに、1600人で歌う大学合唱「第九」が会場をもり立てます。玉川ではなぜ、「第九」を歌い続けるのでしょうか。
朝日「どう伝えるかが難しいですね。歌ってみれば分かるのですが、これはもう、曲の力としか言いようがありません。コロナ禍でも伝統は絶やさず、リモートでの合唱を試みました。ベートーヴェンの『第九』はいまだに議論となり、新たな学説が生まれるくらい、歴史的にも影響力を持った曲なんですね。実際に『第九』を歌って、楽しいとはなかなか思えない。むしろ音が高くて苦しい、難しい、そういう曲なんです。初演の際、ソリストがベートーヴェンに『これは声楽家に対する拷問です』と言ったとの記述が残っているくらい、この曲は常識的に見ても異常な音の高さが多用されています。だからこそ、大勢で力を合わせて達成した時の喜びや感動は格別で、ベートーヴェンが『苦悩を突き抜けて歓喜に至れ』と言ったように、一生懸命に向き合った人ほど大きな達成感が得られる、そういう教材ですね」
<第九の合唱パート練習(上)、オーケストラの合奏(下)>
――有志の教職員によるアカペラの合唱も見どころです。
朝日「これは髙橋先生が指揮をされますが、学園全体で行うこうした集いや式典で教職員が歌うことは珍しく、画期的な試みだと思います。玉川の卒業生ではない先生が多い大学でも、教育学部や芸術学部だけでなく、農学部や工学部の先生、事務職員の皆さんも数多く参加し、総勢350人くらいの大合唱になりそうです。玉川出身以外の教職員も玉川の音楽教育を改めて知るチャンスであり、さらに生徒たちにそうした姿を見せることもまた良いことだと思います」
髙橋「先生方も生徒と同じで、なかには歌をほとんど歌わずに中学や高校を卒業し、そのまま歌に触れずに来た方もいます。生徒たちのように多くの時間を練習に費やすことはできなくても、久しぶりに声を出して楽しかったとか、歌が得意でなくても、ハーモニーに包まれて気持ちが良かったとか、そんな声をいただいています。ステージに立って歌うという経験を通して、教職員も一緒に歌を歌う機会がさらに増え、皆の生活に潤いを与えられたらうれしいですね」
――まさに「生活音楽」ですね。
朝日「それが本質ですね。ステージ音楽ももちろん尊いのですが、技術がなければ音楽を楽しむ資格がないというのはプロの世界の話です。各々の精一杯の表現から得られる音楽の喜びを、歌っている本人が得られること。これが玉川音楽の狙いです。上手くなくても、音程が外れていても、懸命に歌う姿に皆が涙を流して感動するんです。玉川にはそれを自然体でできる土壌があり、そこが玉川の良さだと思います。今回、サブタイトルに『歌声は力、合唱は労作』とありますが、歌声は言うまでもなく、生きる力となります。さらに音楽に限らず、礼拝も掃除(美化労作)も、玉川の教育はすべて、自ら考え、手や足を使って汗をかき、体験しながら学ぶ『労作』の一環です。会場で演奏している学生や子どもたちの姿、歌っている表情をぜひ見てほしいです」
<関連情報>
玉川学園 創立95周年を迎えて
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玉川学園について
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