
玉川大学(東京都町田市)工学部ソフトウェアサイエンス学科では、所属学科の教員や学生らが、小中学生向けのプログラミング教室「子どもIT未来塾」(青梅市教育委員会、羽村市教育委員会、青梅佐藤財団主催)の運営メンバーを務め、講師活動や教材開発などを通じて、地域の子どもたちへ最先端の学びを提供しています。2018年に開講したこの「子どもIT未来塾」では、小型汎用コンピュータ「ラズベリーパイ」を使い、全10回にわたる講座でソフトウェアとハードウェアを同時に学びます。
<ポスター>
10月に終了した第7期では、募集定員を上回る応募の中から選ばれた、小学5年生から中学1年生までの22名が受講しました。初回は大竹敢教授(ソフトウェアサイエンス学科)らの指導の下、ラズベリーパイの基本的な操作を学び、自身を紹介するホームページの制作に取り組みました。また、第6回と第8回の講義を担当した佐藤雅俊教授(ソフトウェアサイエンス学科)からは、インターネットの仕組みやプログラムコードの書き方などを学び、特別編では、地元企業の工場を見学しました。講義には毎回、ソフトウェアサイエンス学科の助手や大竹研究室と佐藤研究室の学生が補助指導員(ティーチング・アシスタント、TA)として加わり、子どもたちの活発な質問に答えながらマンツーマンで指導しました。
7期を振り返り、大竹教授は「子どもたちは楽しみながら熱心に取り組み、最後には自分の作りたいものを形にし、それを仲間にも体験してもらうことで、大きな達成感を得られたのではないか」と語ります。IT未来塾の最終回では、成果発表として、受講生がそれぞれ自分の作品を発表します。今回は、ゲームの制作や、駐車場の入出庫を感知するセンサの開発、音声でリモコンを制御するシステムの考案など、興味深い作品が多かったそうです。
<子どもIT未来塾の講義の様子>
このほど、玉川大学工学部の2期生でもある青梅佐藤財団の佐藤敏明理事長を交え、大竹教授と佐藤教授、TAを務めたソフトウェアサイエンス学科助手の佐藤愛深先生、大崎聖悟さん(修士1年)、熊谷彩耶さん(修士1年)、石川奈緒さん(学部4年)、塩出桜子さん(学部4年)、相原笑魅さん(学部3年)、荒木稟人さん(学部3年)の中から、代表して5人が集まり、IT未来塾について語る座談会を開きました。
――はじめに、「子どもIT未来塾」の趣旨とスタートのきっかけを教えてください。
佐藤理事長「このIT未来塾が発足した背景には、1992年から活動している特定非営利活動法人『パルテノン研究会』があります。同研究会は、NTTが開発したハードウェア記述言語などをベースにした国産LSI設計ツールを広めるため、関連研究や製品の普及、さらにハードウェアとソフトウェアの両方の知識を持つ組み込みエンジニアの育成を目指しており、当財団が当初からお手伝いをしています。研究会は大学が中心ですが、日本の将来を見据えた時に、大学生だけでなく、もっと早く小中学生から学ぶべきだと考え、2018年に子どもIT未来塾を立ち上げました。東京都青梅市と羽村市、福生市の教育委員会が参画してくださり、コロナ禍では一時、休講もしましたが、現在まで産官学で活動を続けることができ、大変ありがたく思っています」
<青梅佐藤財団・佐藤敏明理事長>
――「子どもの能力には限界がない」との理念を掲げ、プログラミングの基礎から最先端技術までを体系的に教えるIT未来塾では、2022年から玉川大学が加わり、内容がより充実してきましたね。
佐藤理事長「そうですね。当初は研究会で発表された先生方が運営してくれていましたが、現在は私の母校でもある玉川大学が中核メンバーとして活動してくださり、大変心強いです。講義の内容はかなり濃く、TAの皆さんも丁寧に教えてくださっており受講生も喜んでいます。IT未来塾の修了生は今や延べ100人を超え、多くの学生が理工系の大学へ進学しています。さらには1期生や2期生がTAとして戻ってきてくれ、玉川の学生さんたちと一緒に活動してくれていることは本当にうれしく思います。パルテノン研究会に始まり、IT未来塾においても好循環が生まれ始めていると感じますね」
<第7期修了式の記念写真>
――玉川大学がIT未来塾の活動に参加した経緯とは。
大竹教授「私と佐藤先生の大学時代の先輩であり、パルテノン研究会の副理事長でIT未来塾の名誉塾長でもある東海大学の清水尚彦教授から紹介を受け、もちろん、佐藤理事長からも直接お話をいただきまして、参加させてもらうことになりました。IT未来塾の講義は大学生が学ぶような内容で、テキストもかなり分厚いんですね。小学生がこれを完全に理解するのは恐らく難しいのですが、私たちは最初の一歩として、プログラミングに興味を持ってほしいと思っているんです。清水先生が『我々は種をまいているんだ』といつもおっしゃるのですが、講義を受けた後でも、テキストを自分で読み進めながら自発的に学べるような構成にしています」
<大竹敢教授>
――興味を抱くことができたら、その先も自ら学び、将来につなげていけるということですね。
大竹教授「はい。ですから、音声認識や音声合成、(ウェブサイトからデータを自動で抽出する)スクレイピングや、センサを駆使したリモコン操作など、その内容はともすれば、大学生でも理解が難しいかもしれません。それを小学生のうちから体験を通して学び、段階的に知識を深めていくことで、将来はぜひ玉川大でより専門的に学んでほしいと期待していますが(笑)、そうでなくても、ITに関わる分野へと進んでもらいたいですね。例えば、子どもたちが興味をもちやすいゲームの回では、ラズベリーパイ上で動くゲームプログラムを題材にしてみんなでゲームを改造するのですが、独自のインプリタ言語であるHSPを開発した第一人者で、現塾長のおにたま(武田寧)先生から直接習うことができるのはとても貴重な経験でしょう」
<講義風景>
――佐藤先生はインターネットの原理の解説から、パケット送信、データの取得といった実践編に至るまで、幅広い内容を教えられました。
佐藤教授「IT未来塾は清水先生の時代から、『種をまく』とのコンセプトの下、あえて高度な内容を教え、世界で活躍できる技術者を育てるという目的で進めてきました。内容をすべて理解できなくても、子どもたちがとにかく楽しんで取り組める雰囲気を大切にしているんですね。今回は受講生のレベルが高かったからか、講義がとてもスムーズに進みました。今後は、AI(人工知能)技術を使ったシステムの構築や作品づくりなども取り入れていきたいと考えています」
<佐藤雅俊教授>
――全10回の講義に携わったTAの皆さんは、受講生一人ひとりに手厚く指導されたそうですね。振り返っていかがですか。
<左から、石川奈緒さん、塩出桜子さん、大崎聖悟さん、佐藤愛深先生、熊谷彩耶さん>
TAの皆さんのコメント
「子どもに教えるためには、自分が基礎的な部分までしっかりと理解していないといけません。ですので、予習をしながら内容を頭に入れた上で、毎回、できるだけ分かりやすく子どもたちにアウトプットするようにしました。結果的に、自分自身の理解もより深まったと思います」
「IT未来塾では子どもたちに楽しんでもらうことが一番なので、そのためにも自分も楽しみながら講義に臨みました。小中学生に教えるのは初めてでしたが、伝え方を工夫しながら、常に笑顔で明るく接することに努めました」
「私も小さい頃、母にコンピュータ教室に連れて行ってもらったんです。そこで初めてコンピュータに触れ、今ではこうして工学部を卒業し、情報の教員免許を取得しています。受講生たちにとっても、このIT未来塾が将来の夢を育むきっかけになったらうれしいですね」
「私は学部2年生の時から、3年連続でTAを務めました。当初は情報の知識が浅く、心許ないところがありましたが、実践を重ねていくことで、年々、子どもたちとのコミュニケーションや指導がうまくできるようになった気がします。教育実習の際にもこの経験がとても役立ちました」
「私も情報の教員免許を持っており、本当に貴重な体験をさせてもらいました。ただ、教育実習で高校生に教える場合と、小学生に教える場合とではやはり大きく違い、今回は専門用語を使わず、分かりやすい言葉で伝えることを心がけました。自分は教えることが好きかもしれない、と気づけたことも良かったです」
<相原笑魅さん>
<荒木稟人さん>
――TAの皆さんに対する良い教育効果にもなりますね。
佐藤教授「まさにそうなんです。今回出席していませんが、私の研究室の2人の学生も、学部3年生ながら、TAをぜひやらせてほしいとの要望があったので、すでに他大学を含めTAは十分集まっていたのですが、事務局と相談して特別にメンバーに入れてもらいました。本人たちは喜んで積極的に参加してくれ、とてもよい勉強になったと思います。今回の参加者は、情報の教員や大学院進学を目指す学生が多く、TAの知見や経験が彼らの将来にも活きてくるのではないでしょうか」
<受講生をTAが参加者をマンツーマンで優しく指導>
――IT未来塾は今後、どのように展開していかれますか。
佐藤理事長「地域の活動としてこれからも一歩一歩進めていくことで、少しずつ波及していけばうれしいですね。専門性をより高めていただくため、財団では2026年以降、IT未来塾の修了生を対象にした新たな塾の開講も予定しています。IT未来塾は継続した上で、さらに一段高いレベルの教育を行い、社会で活躍できる人材に育てたいと考えています。スポーツの世界で言えば、初めは関東大会への出場、やがて国体、日本代表となり、オールジャパンへと駆け上がっていく。この地域から“オリンピック選手”が出てくれば、IT教育が瞬く間に広がりますよね。技術の世界も、他の世界と同じだと思うんです。強くないと皆さんの目がそこに向きませんから。夢は大きく、さらに一つでも多く。私は玉川育ちですからね」
大竹教授「そうですね。このIT未来塾から、未来のビル・ゲイツ、未来のスティーブ・ジョブズを生み出す。そんな世界的に活躍する人材を輩出することが、まさに私たち講師陣の大きな夢です」
<関連リンク>
・青梅佐藤財団 子どもIT未来塾
www.sato-zaidan.or.jp/r07/kobetu-3-2-2.html
・玉川大学工学部ソフトウェアサイエンス学科
www.tamagawa.ac.jp/college_of_engineering/software/
青梅佐藤財団 子どもIT未来塾
「子どもIT未来塾」第7期開講! 本格派のソフト・ハードプログラミングを学ぶ全10回シリーズ
ラズベリーパイを使った本格的なソフトウェア・ハードウェアプログラミング教室「子どもIT未来塾」が、今年もスタートしました。 2018年に開講して以来、今年で第7回目の開催となります。
本講座は、「子どもの能力には限界がない」という理念のもと、小学生からでも基礎から最先端技術まで体系的に学べる内容となっており、毎年多くの子どもたちがプログラミングの世界へと一歩を踏み出しています
www.sato-zaidan.or.jp/r07/kobetu-3-2-2.html
玉川大学工学部 ソフトウェアサイエンス学科
〇玉川大学工学部
www.tamagawa.ac.jp/college_of_engineering/
〇玉川大学工学部 ソフトウェアサイエンス学科
専門的スキルを修得し ITの新たな分野を切りひらく
www.tamagawa.ac.jp/college_of_engineering/software/
ソフトウェアサイエンス学科では、さまざまなオンラインサービスやデジタル製品のソフトウェアに着目し、1、2年次にはプログラミングや情報処理技術、ネットワーク技術、モバイル技術、画像処理、ゲーム・コンテンツ開発技術などを総合的に学修します。
そして、3年次からは4つの専門領域に進んで学びを深め、ITの最先端分野を切り拓くスペシャリストをめざします。