本学は、獣医学部教授の伊藤潤哉をリーダーとする研究チームが、マウスをモデルとして用いて未成熟卵の効率的なガラス化法の開発に成功したことを発表しました。 この内容は、PLOS ONE に 3 月 11 日掲載されました。本研究チームのメンバーは、麻布大学獣医学部の教授柏崎直巳、教授伊藤潤哉、共同研究員鴨下真紀、共同研究員藤原克祥です。
発表のポイント
マウス未成熟卵の効率的ガラス化保存法の開発に成功現在、ヒトの疾患モデルとなるような遺伝子改変マウスやラットが多く開発され、医学分野をはじめとして様々な分野で用いられています。これらのモデル動物を生体で維持するためには膨大なスペースと費用がかかるため、通常は受精卵の状態で液体窒素中に保存(超低温保存)され、必要に応じて個体へと復元されています。さらに、受精前の未受精卵の状態で保存することが可能となれば、交雑種などを容易に作り出すことが可能となりますが、未受精卵の保存は難しく、保存後の受精能が低下してしまうことが知られていました。またヒト生殖医療においても、未受精卵の保存は、今後さらに重要な技術になると考えられています。
これまでに本研究チームでは、マウス未受精のうち、受精可能なステージである成熟(第二減数分裂中期)卵の超低温保存法(ガラス化保存法)の開発に成功しました(2013 年 発表)。しかし未受精卵のうち、卵巣内に存在する未成熟卵(第一減数分裂前期)の状態での保存に関しては、他のグループにより成功例は報告されているものの、効率は著しく低く、改良が求められていました。
本研究チームは、最小容量ガラス化法による未成熟卵のガラス化保存法の改良・開発を目的とし、ICR 系統のマウスを用いて研究を行いました。その結果、従来の保存液に含まれていたカルシウムを除去し、凍害保護剤としてエチレングリコールを用いた保存液を使用することで、保存した未成熟卵のうち、約半数が受精し胚盤胞まで発生できることを明らかにしました。さらに,その受精卵を代理母に移植したところ、従来は10%程度であった産子への発育率を約35%にまで向上させることに成功しました。これらの成果は、バイオリソースなどの遺伝資源の保存に大きく貢献できると考えられます。またヒト生殖医療における未受精卵の保存にも応用できる可能性が期待されます。この結果はアメリカの科学誌PLOS ONE に発表されました。