
玉川学園小学部(Primary Division)< www.tamagawa.jp/academy/elementary_d/ >1年生が、毎回楽しみにしている活動「丘めぐり」。校舎が丘と森に囲まれているという緑豊かな環境を生かし、定期的に森を散策し、日常の中で豊かな自然を体験して楽しむ活動です。
今年度はTamagawa Mokurin Project(木の輪)< www.tamagawa.ac.jp/info/mokurin/ >と連携し、より専門性の高い「剥皮間伐(はくひかんばつ)」や「草木染め」などに挑戦しました。こうした体験がその場だけで終わらないよう、その後も半年をかけて児童たちは森の変化を観察。
昨年12月には、身近な自然の中で集めた枝や木の実での「リースづくり」や「炭づくり」を楽しみました。活動の最後には「植樹」を行い、森の命を見つめた一連の「学び」。玉川学園小学部は、こうした、点ではなく線となる生きた体験が「本当の学び」となる事を目指しています。同学園では、教育理念の一つに「自然の尊重」を掲げています。「森を守り、木を活かし、人を育てる」の元、子どもたちにとっての最善の教育を日々模索する先生がたにお話を伺いました。
<左から、廻谷美和先生、野瀬佳浩先生、久保 朔平君、伊藤真由美先生>
今回のプロジェクトの取りまとめを行った総合科主任と学年主任を務める廻谷美和先生は、「プロジェクトの概要や方向性は事前に決定していたのですが、そこから具体的に何をするかは子どもたちの興味関心によって変化していきました」と話します。
5月に行った剥皮間伐は、木を完全に伐採するのではなく、成長不良の木の皮を剥いで枯れさせて、森全体の育成を助ける伝統的な管理手法となります。
<1年学年主任 廻谷美和先生>
「当日、間伐の意義について農学部で保全生物学・植物繁殖学を専門とする山﨑旬教授や学生の皆さんから話を聞き、大きな木の皮がダイナミックに剥ける様子に子どもたちも興奮していました。剥いだ後の立派な皮をみんなでワッショイワッショイ背負ったりして、当日は楽しいイベントとして終わったのですが、そのままで終わらせたくないなと。せっかく綺麗に剥けた皮を活用したいとTamagawa Mokurin Projectや地球工作所の方に相談し、草木染めの提案をいただきました」。
<剥皮間伐の様子>
草木染め当日は、リベラルアーツ学部の教員や学生たちと一緒にハンカチ染めの作業を行い、子どもたちはヒノキの香りに包まれながら、「いいにおいだね」、「これは森の色なんだね」などの言葉を交わし、染まっていく色の変化を楽しみました。
「自分たちで剥いだ皮で染めた世界で一つのハンカチ。これで毎日のお弁当を包み、大事にしてほしいなと考えています」と廻谷先生。
<草木染の作業>
季節は巡り、12月の「クリスマスリースづくり」当日の午前中には、森からの恵みである木の実や枝を使ってのリースづくりに夢中になった子どもたち。クリスマスの飾りだけに収まらない、子どもたちの想像力の光る作品が校舎を彩りました。午後には、学園の伝統である「聖山労作(せいざんろうさく)」と名付けられた森の整備を行うため、キャンパス内にある冬木立の丘(聖山)へと向かった子どもたち。農学部山﨑旬教授の指導の元、その歴史ある地にモミジやトチノキなどの苗木の植樹を行い、森の未来へと想いを馳せました。
リース作りでひときわ作業に没頭していた久保朔平君は、制作にむけて、学内の丘やグラウンド、通学途中に毎日コツコツと様々な木の実を探して拾い集めて来たそうです。完成したリースを飾るのは、ツバキの実や乾燥させた校舎横の柚子の実、丘めぐりで拾ったどんぐりなどなど、どれも思い入れのある物ばかりだそう。5月の剥皮間伐や丘めぐり、これまでの活動を経て完成した特製リース。『森のだいばくはつ』とエネルギー溢れるタイトルをつけた久保君は、この作品について「森を守った自然からのごほうびだと感じました」と、印象的な感想を述べてくれました。
<1年あやめ組 久保 朔平 君>
久保君が在籍する1年あやめ組担任の伊藤真由美先生は、「ある時から、久保君がリース用に木の実を拾ってきてくれるようになって。あそこにこんなのあったよ、あんなのあったよと教えてくれる内に、松ぼっくりやどんぐりなどの木の実収集が徐々にクラスのムーブメントに。最終的にはクラスみんなが宝探しするように夢中になり、想像以上にみんながリース作りを楽しみに当日に臨みました。」と話します。
<1年あやめ組担任 伊藤真由美 先生>
久保君への「またこんなイベントがあったら参加したいですか?」の質問には、間髪入れず「したい!」と力強い返事が返って来ました。自分を取り囲む自然が、すっかり自分の一部になっているかのように、久保君の中で自然への想いが強くなっていることを感じました。彼にとって、今回のリース作りという創作活動は、とても興味深い活動になったようです。
廻谷先生は、こうした五感を使った体験が児童たちの身の内に確かに息づいていると感じると話します。「学校のシンボルツリーでもあったヒマラヤスギ3本が寿命で伐採された際は、子どもたちみんなが一本また一本と無くなっていく姿を日々見守っていました。」森での活動を経て、自然と子どもたちの関心が、木や草花の変化、その根底にある命に向けられているのを感じると言います。その後も、伐採後の切り株の木輪模様を写し取ったり、枝を使ったアート作品を制作したり、ヒマラヤスギや周りの自然を使った活動に興味津々だった子どもたち。
「面白いのが、同じ体験でもクラスによって興味が枝分かれしていくのです。1年生約110名で4クラスありますが、あるクラスは、リース作りで三角や四角など枝の組み方の形によって強度が違うことを発見し、算数の図形の話題に繋がりました。担任の先生たちは、こうしたその場で沸き起こった疑問や興味関心をキャッチし、総合の授業時間などを自由に深めていける授業づくりが出来るようになっています」。
<クリスマス リースの作品>
「きれいな心」「良い頭」「強い体」をバランスよく修得できるように、児童の成長に合わせたカリキュラムを構築している同学園。広大なキャンパス全体が学びの舞台であり、動植物の生命の尊さや感謝の気持ちを味わう体験の時間を、総合科の中で柔軟に設定しています。
それゆえ、玉川学園にはチャイムが無いそうです。「子どもたちの集中や作業の手を中断する事なく、継続的に物事に取り組めるようにしています。また、担任の先生が毎週新しく時間割を設定し直すので、『今週は集中してじっくりとテーマを掘り下げたい』という場合は、連続して総合を3コマ行うなど、クラスに合った授業を週ごと自在に組んでいます。決まったカリキュラムや目標はもちろんありますが、その到達するゴールへの道のりがクラスによって違うのです」。
<玉川学園 小学部校舎>
小学部では職員室が無く、各教室内の一角に先生のスペースを設けて子どもたちとの対話の時間を十分に確保できるようにしています。「授業中にヘビが出た、蜂の巣があると聞けばすぐに見に行って観察したり、柚子がたわわに実ったら、その実を拾い集め農学部の専用乾燥器でドライフルーツにしてみたり。遊びの延長で学びに繋がることが日々起こっています」と話します。子どもたちとの距離が近いからこそ、子どもの興味関心をキャッチできるのだと思います。
そうした四季折々の変化による出来事を一緒に楽しむ先生たちあってこそ可能になる学びの形。取材中も、子どもたちとのエピソードが次から次へと浮かんでくるようで、先生たちは思い出す度に笑顔で話してくれました。
伊藤先生は、「先生というのは、すごく影響を与える存在だと感じることが多く、身の引き締まる思いで毎日を過ごしています。それだけに、子どもたちがせっかく疑問に思ったことはスルーせずしっかり拾っていきたい。面白いと思ったものを大人が『いい視点だね、調べてみよう』と一緒に取り組んでいくことは、やはり経験としてすごく残ると思うのです。『おもしろい』を追求した結果こんなことに繋がった!という喜びを感じてほしい。毎年素材は変わっても、こうした土台作りが大事だと感じています」と語ってくれました。
廻谷先生は、「農学部や地球工作所など、色々な専門の人たちとの身近な出会いがある環境も貴重です。森での取り組みでも、伐採するだけじゃなくて、それを子どもたちの教育に還元してくださる。普段私たちだけだとなかなかできない大きな体験、活動が出来るのがありがたいです。教科書とノート、机での教室の授業だけではなく、生きた素材が本当にちょっと歩けばそこにある。自然がすごく身近にある玉川の丘の環境からいただいたものも大きいです。」と話します。
学務主任の溝口広久先生は、「子どもたちと関わってきて強く思うのは、五感の実感を伴った経験の大切さです。子どもの探究心を奮わせる原動力は、やはりこれなのだと感じます。」と力強くコメント。「来年度からは新たな取り組みとして、小学部の3年生以上で生成AIとの付き合い方を学ぶことを考えています。AI誕生がこれからの社会に良くも悪くも大きな影響を及ぼすことは間違いない。そんな今を育ちゆく子どもたちが、バーチャル世界を泳ぎながら、『実感を伴う自分事の学びを実現する鍵は、生身の身体を通して得たホンモノの経験だ』という気付きを得て欲しい。」と期待を込めます。
小学部の部長を務める野瀬佳浩先生は、「私は子どもたちがホンモノに触れるという事をとても大事にしています。ホンモノとは二つあり、一つは一流のものに触れるということ。もう一つは実際に五感を使ってフィールドに出て、いろんなものの感触を味わい、本当にそうなんだということを実感すること。一流という部分では、玉川学園の場合は総合学園として幼稚部から大学院までワンキャンパスの中にあるので、頼れる場所がたくさんあります。一流の研究者や専門家の玉川大学の先生に学べる環境には、ものすごく大きな意味があります。
学んだことに疑問を持ち、自分で調べ、見つけ、やってみるという事が学びの本質になると思います。 遊びが学びにつながり、それを積み重ねて自分の学びが育っていく。 色々なことに子どもたちが目を広げて興味を持ち、それを先生たちが面白いと感じて対応し、ご家庭が援助し、三位一体で継続した学びを行っていくこと。今は答えが一つとは限らない世の中です。知識ももちろん大事ですが、その知識を元にどう生きていくか、それをどう自分で解釈し、生きていく上で活かしていくのかという『本当の意味の力』が必要なのではないかと思います。
そして、私は部長の立場として先生がたにも目を向けたい。子どもから出てきたものを上手に拾い、一緒になって楽しんでやれる。 子どもと一緒になって師弟同行で子どもと歩んでいくという姿。そんな情熱のある先生を育てていきたいと思っています」。
<教育部長 野瀬佳浩先生>
そう語る野瀬部長が、いかに児童たちから慕われているかというエピソードも他の先生がたから上がり、目を細めてその時の様子を思い出す表情がとても印象的でした。
児童と先生の距離が近く、学びを共に楽しもうとする土台があるからこそ子どもたちが自由に生き生きと学んでいけるのだと感じます。
玉川学園の創始者である小原國芳が唱えた「心身ともに調和がとれた『ひとづくり』」を目指す全人教育。取材を通し、まもなく創立100周年を迎える玉川学園は自然と共に学ぶ教育理念を体現し、自然豊かな環境で、森の新芽のような若い力が伸び伸びと育まれていることを感じました。
<関連情報:各活動の紹介>
■Primary1年生がリース作りや聖山労作を体験。森を守り、活かすことを学ぶ一日になりました。
www.tamagawa.jp/education/report/detail_25551.html
■自分達で剥いだ木の皮で草木染め!
www.tamagawa.ac.jp/info/mokurin/news/detail_008.html
■Primary Division 1年生による聖山労作
www.tamagawa.ac.jp/info/mokurin/news/detail_048.html