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顧客との接点であるコンタクトセンター、環境の変化にAIを活用してどう対応できるか

ここ最近、AI・人工知能という言葉を見聞きする機会は非常に多くなっている。メディアでの報道だけでなく、iPhoneのSiriやAmazonのAlexaなど私たちの身近なところにもAIを活用した製品、サービスが増えた。また、企業の新卒採用での活用や銀行の審査業務での活用など、ビジネス分野でもAIを仕事に適用する例が増えている。一方で、「AIで本当にできるのか?」「どこまでできるのか?」という疑問を抱く人も少なくないのが現状ではないだろうか。
2018年5月18日、東京国際フォーラムで開催された富士通フォーラムにおいて、企業と顧客のエンゲージメントでのAI活用をテーマとして”「AI×ヒト」で実現するカスタマー・エンゲージメント
お客様の琴線にふれるAIコンタクトセンターとは”と題したパネルディスカッションが行われた。

パネルディスカッション登壇者
コンタクトセンターは顧客ロイヤルティ向上に有効

しかし、人材確保など様々な課題が山積
どのような企業にとっても顧客のロイヤルティを高めることは重要な経営課題だ。顧客との接点としてコンタクトセンターがあり、問い合わせなどの顧客対応を通じてロイヤルティ向上に取り組んでいる。ISラボ代表の渡部氏によれば、ある小売業でのコンタクトセンターに問い合わせ経験がある人とない人でのロイヤルティの差についての調査結果(NPS:Net Promoter Scoreの数値)では、経験ありでは16.0、経験なしでは-0.2となり大きな開きがあったと報告があった。また満足度で「大変満足」は経験ありの人で56.3%、顧客全体では3.3%とのこと。このことからもコンタクトセンターはロイヤルティ向上に有効であることが分かる。
しかし、コンタクトセンターに問い合わせ経験がある人は21.9%。残りの8割近くはいわゆるサイレントカスタマーだ。この人たちに問い合わせをしてもらい、そこで満足度を上げることが課題の一つと言える。

一方、株式会社リックテレコムの矢島氏は「ロイヤルティやエンゲージメントは理屈の上では重々承知だが、それどころではない」とコンタクトセンターの現場の状況について話す。その背景は採用難と離職率が上がっていることだ。またコンタクトセンターを持つ株式会社オリエントコーポレーションの一色氏は商品が多様化しており、教育内容が増加していることも課題としてあげ、「定着率の件、新規採用などコンタクトセンターだけで解決できることは少なくなってきている。」と話し、組織横断的な取り組みも始めている。

富士通では昨年1月にデジタルフロントビジネスグループ を設立した。この部門は「お客様と一緒になってデジタル化に進もう」(富士通今田氏)ということを目的にしており、コンタクトセンターも含む「顧客関係のデジタル化」は重点領域と位置付けている。昨年、CHORDSHIP(Chord(心の琴線) + Relationship)と名付けたソリューションを発表した。これは、(1)コンサルティング、(2)AIチャットボットをSaasで提供、(3)有人チャットを柱としたソリューションだ。
「今、企業とカスタマーとの関係のあり方をデジタルを使って変革していこうという動きがある。」と今田氏は話す。このような状況に対して、富士通はデザイン思考のアプローチで、顧客と一緒に課題解決を目指すとしている。

多様化するコミュニケーションチャネル

現在、顧客とのコミュニケーションのチャネルは、メールや電話、チャット、LINEなど多様化している。「消費者の行動変化に(企業側は)ついていけていない」と、矢島氏は現状を見ている。このような顧客が使用するチャネルの変化に対して、オリコでは2018年3月にWebサイトにチャットボットを導入した。これはオムニチャネル、デジタル化への対応として2016年頃から海外を含めた情報収集を行い、富士通と一緒に検討を重ね、社内での実証実験を経て導入に至った。

また矢島氏は「学生など若者のコミュニケーション手段における電話のプライオリティが著しく下がっている。しかし、企業の顧客接点の非対面の主役は今も電話。」と企業側と顧客の間でのギャップがあると指摘している。同様に今田氏も「ギャップがかなりある。」と感じており、「ギャップをテクノロジーで埋める時期が来た」と話す。その中でもAIがキーテクノロジーの一つになるとしている。

AIでどこまでできるのか?

現在、AI・人工知能はあらゆるところで話題だが、AIにもレベルがある。(図参照)
富士通今田氏によれば、ルールに従って多彩な動きや段々ができるレベル2は「大体できている」とのことで、世の中で期待が大きい自動運転などのレベル4は「まだもう少し時間がかかる」としている。そして、ベンダーがかなり宣伝している「レベル3が問題」と話す。画像認識や医療の支援などに適用される分野だが、これには「ビッグデータから学習」という前提条件が付く。これに関して「ビッグデータを用意できる領域は意外と限られている。」と話す。また、「ある程度のきれいない学習データがあれば、非常にポテンシャルがある。」としつつも「そのデータは誰が用意するのか?データを用意するコストと労力を考えると、その解が最適なのか?」という疑問も呈している。

現在のAIの技術では、レベル2がほぼOK、レベル3は条件次第ということになる。
この状況で、コンタクトセンターでのAI活用はどうなるか?
このテーマで取材を重ねたという矢島氏は、「現段階での結論は、FAQの見せ方の最適化。」とし、あるメガバンクの事例として、顧客とオペレータの会話をリアルタイムで音声認識し、該当するFAQをオペレータの画面に表示する例を紹介した。

富士通では当初、自動応答システムを作ろうとディープラーニングの活用を試みたが「意外とコンタクトセンターにはデータがない。」ことが分かったと今田氏は話す。FAQは用意されているがせいぜい数百程度しかない。これで学習しても正答率は50%程度にしかならない。対応履歴は残されているが、オペレータが要約して記入するなど顧客の生の声ではない。この状況ではいくら学習しても精度が上がらない。「今のコンタクトセンターを見ると、AIで自動応答システムの作るのは難しい」と今田氏は話す。

少ないデータで、高い正答率を得るために発想を転換

現在のコンタクトセンターでAI導入により効果を上げるには「少ないデータで、高い正答率を出すこと」が必須条件になる。ディープラーニングの活用では一度暗礁に乗り上げた富士通だが、CHORDSHIPでは「発想の転換」でデータが少ないFAQでも効果を出せるテクノロジーを開発した。お客さんの言葉をAIを使って模範的な質問に変換するアプローチだ。「賢い質問文に置き換えて、回答にヒットするようにした。」と今田氏は話す。
顧客作成のテストケースを使ってのベンチマークでは他社のAIチャットボットの正答率が32%から54%であるのに対して、富士通のチャットボットは80%以上の正答率を叩き出している。

しかし顧客の問い合わせは千差万別。事前に用意しているFAQでは対応できない例外などもあるだろう。これに対して富士通では、AIと人のハイブリッド運用を勧めている。パターン化できるものはチャットボットで対応し、オペレータの負担を軽減する。対応不可な場合は有人チャットにつないで対応する仕組みだ。また、チャットボットで対応できないケースはFAQを追加することでAIを成長させられるという。
「AIで100%対応は目標だが、今は得策ではない。AIはすごいポテンシャルを持っているが、適材適所」と今田氏は話す。
現在あるFAQでスタートでき、成長させられる仕組みであるCHORDSHIPで「企業とお客さんとの新たな関係作りを支援していく。コンサルティングを含めて支援していく。」と抱負を語っている。

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