2018年7月3日

デジタル変革、待ったなし。戦略的協業に見る富士通の本気

2018年5月10日、富士通は米国Pivotal社との提携を「戦略的協業」と表現し、「アジャイル開発」「リーンスタートアップ」の手法を用いて顧客のデジタル変革を支援するサービスの提供開始を発表した。5月17日、18日に東京国際フォーラムで開催された富士通フォーラムでは、この提携に基づいた各種のソリューションやこれまでの取り組みなど多数紹介された。また、メディア向けに富士通、Pivotalジャパン両社から、改めて今回の提携の狙いや今後の展開について説明が行われた。

デジタル変革を求められる“顧客”と“ベンダー”

富士通株式会社 デジタルフロントビジネスグループ エグゼグティブアーキテクト 中村記章氏

現在、様々な業種でビジネス環境が複雑化し、今まで以上にスピードが求められている。製品を素早く開発し市場投入するためには、これまでのシステムが足枷になることも多く、顧客側も従来のように「ベンダー丸投げ」でのシステム開発では変化への対応が困難なってきた。このような課題に対応するため、アジャイル開発、リーンスタートアップが注目を集めている。顧客、ベンダー双方において、システム開発のスタイルの変革、またそれに付随した仕事のやり方の変革の意識が高まっている。
「顧客が欲しいものは自分たちで作り上げるという意識に変化してきている」、「最近では、顧客側から『アジャイル開発』『リーンスタートアップ』というキーワードでの問い合わせが非常に増えている。」と、富士通株式会社 デジタルフロントビジネスグループ エグゼクティブアーキテクト 中村記章氏は述べている。また、Pivotalジャパン株式会社 カントリー・マネージャーの正井拓己氏は「昨年あたりから日本企業もデジタル変革への意識が高まってきた。」と述べた。

「アジャイル開発、リーンスタートアップの手法を用いて顧客の中核業務の強化を支援していく」とする富士通は、Pivotalをパートナーとして選定した理由に、

  1. アジャイル開発、リーンスタートアップに対するビジョン、考え方における共通性
  2. グローバルで通用するレベルに自社の能力を高めること

を挙げた。

富士通では「アジャイル開発、リーンスタートアップを実践するにはマインドチェンジが重要」(中村氏)との認識から、顧客サイドの人材育成も含めたサービス提供を行う。これは従来のSIerのスタンスから一歩踏み込んだものと言える。
「従来の請負型のSIは顧客に言われたことをやるだけだったが、これからはこのようなやり方では通用しない。顧客にとって何がベストかを一緒に考え、それをカタチにして提供する。これはベンダーが率先してやらなければ顧客の信用を失いかねない。」と、富士通自身がSIerとしてのスタンスを変革する必要に迫られている事情も垣間見える。

富士通アジャイルラボに知見を集約

Pivotalは、既に日本国内のITベンダー3社と提携している。しかし、今回の富士通との提携は少しニュアンスが違っている。これまではクラウドネイティブ基盤 Pivotal Cloud Foundry に関しての提携だが、富士通との提携はこれに加えてPivotal Labsと呼ばれるサービス部分を含み、基幹システムの最適化から全体最適を支援する部分もまで広範囲に及んだものだ。Pivotal Labsはアジャイル開発、リーンスタートアップのベストプラクティスをコンサルティング及びスキルトランスファーしていく施設であり、現在世界30ヶ所の拠点で、顧客の開発者とPivotal社の技術者が共同で開発プロジェクトを進めることを通じて手法のトランスファーを行っている。日本では2016年に東京の六本木に開設し、日本企業へのサービス提供を行ってきた。

富士通では、2018年度下期に「富士通アジャイルラボ(仮称)」を開設する計画で、今年4月から東京・六本木のPivotal Labsに技術者を派遣し、Pivotal社の技術者との共同作業で各種手法の体得に努めている。ここでスキルを獲得した技術者は今後、富士通アジャイルラボのコアメンバーとなり、顧客との共同プロジェクトを担当し、顧客に手法をトランスファーしていく計画だ。またこのスキルを持つ人材の育成とスキルの可視化のため、富士通では「アジャイルスペシャリスト」と呼ばれる認定制度を整備した。現在、Pivotal Labsに派遣されている富士通の技術者たちからは、従来の手法との違いに当初は戸惑いが見られたが、「非常に集中し疲れるが、一日一日が充実している。」「顧客との接し方に関して見直すきっかけになり、勉強になっている。」との声が出ているとのことで、SEの働き方改革にもつながる人材の育成に手応えを感じている様子だ。

エンタープライズアジャイルで全体最適へ

富士通では、顧客との関係強化を目的にしたシステムをつなげるSoE領域に加え、デジタル革新に向けた基幹システム(SoR)の最適化を実現するため「エンタープライズアジャイル」という手法を提唱している。現状、重厚長大なシステムとなっている基幹システムを徐々に移行し、俊敏性と変化対応力に優れたシステムの実現を目指すものだ。基幹システムに求められる品質や性能、セキュリティなどの要件を満たしつつ、アジャイル開発の特徴である柔軟性や短期開発を実現させる。具体的には、既存システムの中でも利用頻度、変更頻度の高いものを切り出し、マイクロサービス化してクラウドへ展開する。一方、利用頻度、変更頻度は、それほど高くないが外部システムとの連携が必要な部分はAPI化してつなげるというもの。2018年度はSEのマインドチェンジ、スキルアップ、そしてSoEの対応強化の時期と位置付け、2019年度からはSoRの最適化に取り組む。その後、SoE、SoRの全体最適を行う時期と位置付けている。
このサービスでは、富士通アジャイルラボで顧客と富士通の技術者が一緒になって開発プロジェクトを進めていく。要件定義、仕様作成から共同で取り組み、できるだけ小さくした開発単位(MVP)を積み重ね、システムをリリースする。これを12〜16週間のサイクルで実施する。
プロジェクトを進めることで、顧客側はシステムはもちろん、自社人材のスキルアップ、マインドチェンジがなされ、「自分たちで作り上げる」ためのノウハウ、文化をも手に入れることが可能になる。

自分たちで作り上げるぞという意志、組織文化の変革が成功への鍵

Pivotalジャパン株式会社 カントリー・マネージャー 正井拓巳氏

「基幹システムでのアジャイル開発の試みは2000年頃からもあったが、成功経験がない。手法を変えただけで、基幹システムには不向きという認識があった。」と中村氏は述べている。従来からのウォーターフォール型の請負契約においては、顧客はITベンダーに対し「こういうものが欲しい。こういうものを作ってくれ」というスタンスになりがちだが、アジャイル開発、リーンスタートアップでは「自分たちが必要なものは自分たちで作り上げていくというマインド・意志が必要。それを富士通がテクノロジーで支援する。」(中村氏)と、ユーザー企業の意識変革の必要性を述べている。欧米企業でのデジタル変革支援の経験も豊富なPivotalの正井氏は「経営層のコミットメント」と「失敗を奨励する文化」を成功の重要な要素として挙げ、組織文化の変革も必要だと述べた。

「日本の企業文化を強くしたい」

従来のシステム開発は、顧客の要望、仕様に基づいたシステムを開発し提供する「モノ」のビジネスだが、今回の両社の提携により提供されるサービスは、今までとは違う手法、考え方により、顧客とベンダーが共同で新しい価値を生み出すという新しいスタイルを創っていくもので「コト」のビジネスと言える。
中村氏は「日本から新しいスタイルを作り、グローバルに展開していく。そういう活動だと認識している。この活動をもっと大きくしたい。顧客、ベンダーが手を組みながら、輪を広げて、日本の企業文化を強くしたい。」と述べている。
もともとアジャイルなどは、日本の文化から生まれたもの。それが欧米で標準化されて広がった。「日本本来の良さを取り戻す。今回、その第一歩を歩み出した。強い日本を作る。」という中村氏の言葉に富士通のデジタル変革に対する「本気」を感じた。

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