2017年2月10日

埼工大、水素水濃度の正確な測定手法を開発

~溶存水素濃度の基準制定にも期待~

埼玉工業大学(本部:埼玉県深谷市、学長:内山俊一 URL: www.sit.ac.jp/ 、以下、「埼工大」 とします)工学部生命環境化学科の松浦宏昭准教授の研究グループは、電気分析化学的観点に基づ く研究から、水素水に含まれる溶存水素濃度を正確で迅速かつ安価に測定する有効な手法を開発しました。

<背景>
国民生活センターが、水素をうたった水(以下、「水素水」とします。)に関連する商品が数多く販売される中、水素水や水素生成器として販売されている商品について調査し、さらに事業者へ のアンケート調査を実施した結果も取りまとめて昨年 12 月 15 日に発表しました。
水中に含まれる溶存水素に関しては、生体への様々な効能も報告されており、その解明と理想的 な水素水を得るための製造技術および溶存水素の濃度測定に関する有効な技術を確立する必要性 が非常に高まっています。
その理由の一つとして、水に溶けている水素は、容器の開封後や水素生成器で作った後の時間経 過により徐々に抜けていくためです(参考情報:国民生活センター発表資料)。このため特に溶存 水素を測定する技術については、正確で迅速かつ安価な溶存水素センサの開発が求められています。
そこで埼工大では、長年にわたり溶液中の成分を計測する研究開発を進めてきた経験を活かして、 水素水中の溶存水素濃度を正確に計測する手法について研究開発を行ってきました。

<本研究の特長>

埼工大は、従来の溶存水素の測定方式とは全く異なる独自の手法に基づく研究から、クーロメトリー方式による測定方法の有効性を見出しました。 一つ目の特長として、カーボン材料を基材として用いて、それをカルバミン酸アンモニウム溶液中で電解酸化し、その後硫酸中で電解還元するというマルチ電解修飾法を考案しました。具体的に は、本手法を利用して、市販の繊維状のカーボン材料(以下、「カーボンフェルト」とします。)を 基材として、その表面を電気化学的に改質したマルチ電解修飾カーボンフェルト電極を開発し、そ の電極が水素を電気分解する特性を有していることを見出しました。
二つ目の特長として、作製した電極を溶存水素検知のためのクーロメトリック測定セルに組み込 み、たった一滴の試料を電極表面に滴下した時に観察される水素の電気分解に伴う電気量を計測し て、試料に含まれる水素濃度を直接算出する測定手法の開発に成功しました。
カーボンフェルトを用いるクーロメトリー方式の測定手法は、30 年程前に現在本学学長の内山 俊一により創案されたものですが、既存の方法では水素を測定することができませんでした。また、 従来の水素濃度の測定手法は、センサの濃度校正作業が必須であり、濃度が不安定な溶存水素水で 濃度校正作業を行うことは事実上困難です。しかし今回、松浦宏昭准教授の研究グループで、水素 を迅速に電気分解できるマルチ電解修飾カーボンフェルト電極を開発したことにより、検量線作成 などの濃度校正作業を一切必要としないクーロメトリー方式による水素水に含まれる溶存水素の 正確で迅速かつ安価な測定手法の開発に成功しました。

<今後の展開>
埼工大で開発した本技術を適用することで、正確で迅速な測定が可能で安価な溶存水素センサ の開発に至りました。それにより、現在の話題となっている水素水の正確な濃度計測の問題解決 にも寄与することが期待できます。
またこの技術の産業活用を推進するため、化学・精密機器メーカーとの連携や協力を検討し、実 用化に向けた研究・開発を進めていきます。
さらに、今回のクーロメトリー方式の溶存水素センサは、唯一の絶対量分析法であることから、 正確性・迅速性・測定操作の簡便性を兼ね備えたものであり、溶存水素濃度測定の基準制定、即ち 公定法の指定を模索する検討も進める予定です。
なお本研究成果の一部は、平成 29 年 3 月 25 日~27 日に首都大学東京の南大沢キャンパスで開 催される“電気化学会第 84 回大会 第 61 回化学センサ研究発表会”にて一般講演を行う予定です。 ・講演題目:「マルチ電解修飾カーボン電極を用いる溶存水素の電気化学センサの開発」

<本研究に係わる研究助成金> 本研究の一部は、日本学術振興会の平成 28 年度科学研究費助成事業(科研費)の助成(若手研 究(B)、課題番号:16K17923)を受けて実施されたものです。

●参考情報 ・国民生活センター 2016 年 12 月 15 日発表
容器入り及び生成器で作る、飲む「水素水」-「水素水」には公的な定義等はなく、溶存水素濃 度は様々です- www.kokusen.go.jp/news/data/n-20161215_2.html

報告書本文: www.kokusen.go.jp/pdf/n-20161215_2.pdf

(関連する情報や論文、文献等の紹介) 1. 松浦宏昭 他,“含窒素官能基群を導入したカーボンフェルト電極を用いる次亜塩素酸のバッチ
インジェクションクーロメトリー”,分析化学(Bunseki Kagaku),63(5),411-414 (2014). 2. Hiroaki Matsuura et al., “Coulometric determination of dissolved hydrogen with a multielectrolytic modified carbon felt electrode-based sensor”, Journal of Environmental Sciences, 25(6), 1077-1082 (2013). 3. 内山俊一 編,“高精度基準分析法 クーロメトリーの基礎と応用”,学会出版センター(1998).

●補足情報 ・クーロメトリー方式:測定対象物質を電極で直接電気分解し、その時の電気量(C:クーロン) を測定する方式の電気化学分析法。測定により観測された電気量は、ファラデーの法則(1833 年、1 ファラデー=96485 クーロン/モル)に当てはめることで、観測された電気量から測定対 象物質の濃度に直接変換できる。従来のほとんどの分析手法が濃度校正作業(即ち検量線の作成) の必要があるのに対して、クーロメトリー方式は天秤で試料の重量を直接量る重量分析法と同じ 唯一の絶対量分析法である。したがって、検量線無しで物質の量が計れる方法であり、原理的に は他の重量分析法よりもはるかに高精度な分析ができるという特長がある(参考文献 3)。
・マルチ電解修飾法:カーボン基材を 2 つの工程(電解酸化と電解還元)で処理を行う基材表面の 改質法。2013 年に松浦らが命名(Journal of Environmental Sciences, 25(6), 1077-1082 (2013))。 ・絶対量分析法:長さや体積等、1 回の測定で行われる測定法を指す。なお化学量は、天秤で重量を量る方法が絶対量分析ですが、溶液中濃度の絶対量分析は上述クーロメトリー方式のみとなる。 ・電気分解:電解質を含む溶液に 2 つの電極を差し込み、それらに直流電圧をかけることで、溶液 中の物質等が一方の電極では酸化され、もう一方の電極では還元される反応が進行する現象を電 気分解(電解)という。電気分解では、外部から与えられた電気エネルギーによって溶液中に含
まれる物質の酸化還元反応が進行することになる。

●添付資料(別紙添付)

・クーロメトリー方式による溶存水素測定法の装置概要図(添付資料 1)

・“水素水”の濃度測定で対象となる“水素”について(添付資料 2)

●本件の報道関係者からのお問い合わせ 埼玉工業大学 法人本部企画広報課 担当:神山宜也 〒369-0293 埼玉県深谷市普済寺 1690、TEL 048-585-6805(直通)、FAX 048-585-6899 E-mail: kikaku@sit.ac.jp www.sit.ac.jp/index.html

●本件の研究内容に関するお問い合わせ 埼玉工業大学 工学部生命環境化学科 准教授 松浦宏昭 TEL 048-585-6839(直通)、FAX 048-585-6004(学科事務室) E-mail: matsuura@sit.ac.jp

以上

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